宝珠のおたより

子どもが“考える力”を身につけるために必要なこと

こんにちは、宝珠保育園の園長の倉松です
前回は「子育てで大切にしたい、10のこと」をご紹介しました。
実は、いくつかの項目の根底にあったのは「子どもの考える力を育むことも大切さ」でもありました。

近年、読み書きだけではなく、英語に至るまで、少しでも早いうちから学ばせたいという声も聞きます。
それらの学びも大切だとは思うのですが、それよりも、もっと大切にして欲しいと考えているのは、全ての基礎となる「考える力」を育むことです。
これから先の未来には、「みんなと同じことをやっていれば大丈夫!」「これをやっておけば、将来安定!」という基準もなくなっていくでしょう。

そういった変化の激しい、正解のない世の中を生き抜くには、子どものころから「自分で考える」ことができるようになることが必要だと考えているのです。

今回は、その「考える力を育てるためには、何が必要なのか」をテーマに、宝珠保育園での取り組みや、ご家庭や周りの大人が何をしてあげると良いか?なども踏まえて、お話したいと思います。

まず、大切なことは大きく3つです。これを順番にご説明していきます。

-子どもが“考える力”を身につけるために必要なこと-
1.選択する力を身につけること
2.観察する力を磨くこと
3.日々の会話を「オープン・クエスチョン」で行うこと

 

 

1. 選択する力を身につけること

まず考える力を育むために大切なことは、「選択する力を身につけること」。これを理解することから始めます。

人の「幸せ」についての考え方に「Well-being(ウェルビーイング)」という言葉があります。
心と体、そして社会的にも健康な状態であることを意味する概念で、「幸福」と約されることが多いようです。

※元々は世界保健機関(WHO)憲章の前文にある以下の言葉です。
“Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.”
健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが 満たされた状態にあることをいいます。(日本WHO協会仮訳)

私も成長していく園児たちには、将来に渡って心も体も、社会的にも健康で、「幸せ」を感じる状態でいて欲しいと願っています。

ではそれは、具体的にどういう状態なのでしょうか?

ここからは私の意見ではありますが、「自由な選択と意思決定ができる状態」は、幸せにつながる大きな要素ではないかと思うのです。

大人になり社会に出たときに、「自分は何がしたいのか?」「どういう働き方(暮らし方)をしたいのか?」など、自ら「生き方を決める」ためには<意思決定の力>が必要です。親や周りの人に決めてもらった「生き方」で達成される幸福は、平均程度か、変化の大きい世の中では平均以下のものになってしまうリスクすらあります。だからこそ、時代の変化に合わせて、自分で「決める」ことが重要になってくるのではないでしょうか。そして、意思決定の前には必ず「考える」ということが必要です。だからこそ、幼いころから少しずつ、考え・選び・決めていく経験を積んでいって欲しいと考えています。

ただ、そんなに大げさに考えなくても構いません。何気ない生活の中で、少しずつで大丈夫です。

もちろん個人差はありますが、1歳半くらいになると(時間はかかっても)、自分の着たい洋服を指差して選ぶことができるようになります。洋服に限らず「これが欲しい!」「これはイヤ」「これがいい!」などの意思が生まれてくるのです。

周りの大人は、その意思をなるべく尊重してあげてください。(もちろん難しい状況があることも承知していますので、できるだけ…)これも意思決定の1つの経験だからです。

年齢が高くなると、もっと色んな意思を示せるようになります。なので、周囲の環境も「選択の幅」が広がるようにしてあげて欲しいと思います。例えばおもちゃでも、1つを渡して「これで遊んでね」より、複数のおもちゃを用意して、子どもが「どのおもちゃで、どうやって遊んでも良い」という状態をつくれると良いです。
そうすると、子どもは「どのおもちゃで、どうやって遊ぼうか」を考え、選び、決めることができ、それが1つの「意思決定」の経験にもつながるのです。

宝珠保育園でも、様々なおもちゃを年代別に購入し、自由に遊んでもらっています。
ブロック1つとっても、我々には想像できない組み立て方や、新たな遊び方をしてくれるので、嬉しい驚きを感じます。
おもちゃだけに限らず、畑でサツマイモ掘りをする際に「どのサツマイモを抜きたいか」と選ばせるのも1つの経験です。

ほんの些細なことでも、その積み重ねが「習慣」になっていきますから、宝珠保育園でも、園児に接するときには大切にしていることです。ご家庭でも心がけていただくと、将来のより良い成長につながるのではないかと思います。

和太鼓演奏会前日に「バチが重い!」と不満を言っている園児に、『なぜこのバチを使ってもらっていたのか』をきちんと説明し「軽いバチでも一生懸命太鼓を打ってくれるのが一番だから、どちらのバチを使ってもいいんだよ」と、あらためて自分で選ばせる状況をつくったところ、自ら重いバチを選び、その後一切の文句も泣き言も言わず、一生懸命演奏会当日を迎えた、なんてエピソードもあります。

2. 観察する力を磨くこと

2つ目は、観察する力を磨くこと、です。観察を通じて自らの感性を磨いていって欲しいのです。
宝珠保育園では、四季を観察するために、お散歩や様々な場所へ園外保育に行きますが、これは「観察力」を育むためでもあります。
同じものを見て、みんなが同じ感想を持つ必要はありません。自分で見たり、聞いたり、触ったりした上で、考えて、様々な見方・感じ方をして欲しいと思っています。
結果として、周りの人と似た感想になってしまうこともあると思いますが、できることなら「人との違い」をどんどん伸ばしていって欲しいと考えています。

保育園を卒園して、小学校・中学校…と成長していく過程で「みんなと同じ見方や感想・行動」を望まれるシーンは多くなると思います。私自身も、保護者の皆さんも、かつて似たような経験した方も多いのではないでしょうか?

私自身も、20代のころは「みんなと一緒に(同じように)やれること」が大切だと思っていました。
でもこの仕事をする上で、業界問わず、世の中で活躍している色々な人の書籍を読んだり、講演を聞いたりして学びを深めていく中で、彼らに共通していたのは『光り輝く個性』だったのです。

また、宝珠保育園の卒園生が小学6年生のときの道徳の授業を見学したことがあります。
そのときに、その卒園生だけが周りの生徒たちとは全く違う意見を述べていました。そのときの感動は忘れられません。
「個性」が失われがちな、この世の中で「個性」を保ち、発揮できることは、それだけで「すごい!」ことだと感じるようになりました。

だからこそ、将来に渡って失われない「個性」を見出し、伸ばしてあげたいと思うようになったのです。

また「個性的であること」は、周りの人たちより頭一つ抜きん出るための武器になっていくと思いますし、何より「みんな違って面白い」のが理想の社会ではないでしょうか。

個性を育むためにも、色々なものを観察し、感性を磨いていくことを大切にしたいと思っています。その観察の過程で、おのずと「考える力」も磨かれていくものです。

これも難しいことではなく、色々な風景を見せてあげるだけでも良いのです。同じ山でも畑でも、季節によって見えるものは違います。触れるものや虫の声など聞こえてくるものも違います。きっと感じ方は違うはずです。
宝珠保育園の園外保育や、畑の収穫体験には、そんな狙いもあるのです。

3. 日々の会話を「オープン・クエスチョン」で行うこと

3つ目は「子どもとの会話をひと言で終わらせないこと」です。子どもと会話をする上でのちょっとした心がけが、考える力を育むことにつながります。

例えば

子ども「今日ね、みんな公園に行ったんだ!」
大人 「あら~、良かったね~」

一見微笑ましい会話ではありますが、考える力を育むという点では、もったいないと感じてしまいます。
「公園に行った」という報告から、話を掘り下げてあげて欲しいのです。

子ども「今日ね、みんな公園に行ったんだ!」
大人 「へぇ、どこの公園に行ったの?」
子ども「○○ってとこ!」
大人 「公園には何があったの?」
子ども「うんとね、すべり台とジャングルジムと、砂場もあったよ」
大人 「何で遊んだの?」
子ども「ジャングルジム!」
大人 「ジャングルジムでどうやって遊んだの?」
子ども「あのね…」

などという感じです。「どんな?」「どう思った?」「どう感じた?」という趣旨の投げかけがされると、子ども自身が、その時感じたことを思い出して、考えて、自分の言葉にしてくれます。

「自分の言葉にしてもらう」ことが「考える」ために必要なことなのです。
ちなみに「公園行って楽しかったでしょ?」→「うん!」だと、子ども自身が深く考えないうちに会話が終わってしまうので、大人は先回りして言いたくなる気持ちをぐっと堪えて、子どもの言葉を待ってあげましょう。

ちなみに「どうして?」「なんで?」などの質問方法は、ネガティブな使い方には注意が必要です。子どもが何か失敗してしまったときに「なぜできないの?」「どうして分からないの?」という言い方は、使わないほうが良いと思います。
子ども自身の中に「自分はダメだ」という意識が芽生えてしまうと、成長の足かせになってしまうためです。

宝珠保育園でも、子どもはまだ「良いこと」「悪いこと」を覚えている最中なので、危険が伴う場合は別ですが、子どもが根拠を持てばそれが正解であると考えます。そのため、先生と子どもの会話でもオープン・クエスチョンを心がけていますし、先生に余裕がないと、そういった会話ができないので、担任は2名制にしています。

園でも、どうしても慌ただしいタイミングはあります。当然、ご家庭でもあると思います。忙しい時は、できないこともあるという前提はありつつも、できるときは意識して会話をするだけでも、子どもにとってはとてもいい影響があると思います。

また、子どもの会話を深堀りしていくことは、その子の「個性」を見つけることにもつながります。「個性」を見つけたら伸ばしてあげる、それも宝珠保育園が大切にしたいことです。

園長倉松が「考える力」が大切だと思うようになったのは…

ここまで、子どもの未来のために「考える力」が大切だとお話してきましたが、私自身、子どもの頃から「考える力」があったか?と問われれば、全くそんなことはありません。
むしろ、考える力が弱かったほうだと思っています。
振り返れば、小学校~高校生までバスケに熱中。毎日バスケのことばかりで、他のことなんて頭に入りませんでした。学校を卒業してからは、宝珠院の住職になるための修行の日々。 前述した観察力も特にはなく、雄大な日光連山を眺めても「ああ、山だなぁ」という程度の感想でした。

初めて「考える」という壁にぶつかったのは、24歳、宝珠保育園に携わることになったときでした。

経営や教育について考えなければいけないのに、分からないことだらけで、もう「どこから考えたら良いか分からない」という状態。一緒に働く先生たちに対して「何をして、何を伝えなければいけないのか」もサッパリ分からず、焦るばかりでした。

焦りの中で、地元の青年会議所や色々な人と関わり、話を聞くなど、「考える」を繰り返すようになり、自分はこの地域や子どもたちをどうしていきたいのか、どう関わっていきたいのかの意思が生まれてきました。その過程で、だんだんに「考える力」もついてきたように思います。

子どもの未来のために、今できることを

今では、「地域」「子ども」「社会」の未来まで考えを巡らせることが出来ています。
おそらく、この日光市も、そう遠くない未来を見据えると、人口減などの影響で、厳しい環境になっていくでしょう。今の子どもたちが大人になったとき、今よりも大変な世の中になることが予想されます。

子どもは社会でいうなら、未来です。では、未来(=子ども)のために何が必要か?と考えました。
それは、大変な世の中になっても、生き抜く力を付けてもらうことです。
そのために、私たち大人ができることは、子どもたちの「自ら考え、選び、意思を決める力」を育てることだと思っています。

これが宝珠保育園の保育目標の1つ
「自分の力で考えて、自分の力で決め、自分の力で行動できる人になろう」につながっているのです。

命を大切に思う心、感謝と思いやりの心を育み、自分の力で選択、意思決定ができる子が育つことができたならば、その子の未来は明るいのではないか?
これが宝珠保育園のマインドです。

ご家庭でも、それほど肩肘をはらずとも、ちょっとした会話や日常生活の中で「考える力」を育むチャンスはたくさんあります。困ったとき、悩んだときは、私倉松はもちろん、担任へ気軽にご相談ください。

子どもたちの幸せな未来のために、私たちと保護者さまで、一緒に歩んでいければと思っています。