宝珠のおたより

農作物を育てることと、子どもたちの心の成長について

こんにちは、宝珠保育園の園長の倉松です。
「宝珠のおたより」をご覧の皆さま、いつもありがとうございます。私の発信が、子育て中のお母さま・お父さまの参考になれば幸いです。

さて、今回は宝珠保育園がとても大切にしている「畑」についてご紹介したいと思います。
当園では、季節に合わせてさまざまな無農薬野菜を作っています。園児たちが主体となり、どんな野菜を育てたいかをみんなで話し合ったり、作物を育てるプロの方からアドバイスをもらったりしながら、大人・子どもみんなで力を合わせて作り上げています。

なぜ宝珠保育園では園の取り組みの一環として作物を育てているのか、なぜ「畑」にこだわっているのか、などをお伝えしたいと思います。

保育園では珍しい「大規模な畑」

宝珠保育園は、横30m・縦15mという、保育園ではやや珍しい大規模な畑を持っています。

いわゆる家庭菜園のような規模ではないので、毎年10種類以上の作物を作れているような状況です。
ちなみに、2022年の夏は12種類の野菜を作りました。

【宝珠保育園で作った野菜の種類】

  • ナス(2種類)
  • キュウリ
  • トマト
  • ミニトマト
  • ヘチマ
  • トウモロコシ(2種類)
  • サトイモ
  • えだまめ(2種類)
  • サツマイモ

季節によっては、白菜やダイコン、キャベツ、スナップエンドウなど、一年を通してさまざまな作物を育て、子どもたちが積極的に野菜に触れられるようにしているのが宝珠保育園のこだわりです。

また、畑は園の目と鼻の先にあるので、子どもたちと一緒にいつでも野菜の成長を感じることができます。
私としては、こうして間近でどんどん育っていく野菜を見つめられる環境は、子どもたちにとって良い刺激になると考えていますので、今後も大切にしたい取り組みであると思っています。

畑に関わる子どもたちの活動内容

宝珠保育園での畑の活動は、基本的に2歳以上の子どもたちが中心となります。(収穫のみ1歳児クラスも参加することがあります)

まず、どんな野菜を育てたいのか、何を植えるのか、と計画の段階からが子どもたちの活動となります。
大人が一方的に「この野菜を育てよう!」と提案するのではなく、園児同士で「育てたい野菜」を話し合うこの工程も、子どもたちの心の成長に必要ですし、より野菜に対して愛着を感じられると考えているからです。

とはいえ、現実的に園で育てることが難しい場合もありますので、必要に応じて信頼を寄せている種屋さんにアドバイスをもらうこともあります。

育てる野菜が決まったら、子どもたちがシャベルで畑を耕していきます。和気あいあいとした雰囲気の中で、子どもたちが楽しそうに作業をする姿はとても微笑ましいものですよ。
ある程度、土起こしが進んだら大人が最後にしっかりと畑を耕して、マルチ張りに移ります。

畑の準備は、大人がササッと済ませてしまうほうが早いのですが、きちんと子どもたちにも手伝ってもらい、単純に育てるだけではなく、一通りの畑仕事をお手伝いしてもらっています。

その後は、種まきをしたり、伸びてきた蔓を切ったりと、基本的な畑仕事の毎日です。
時期によってはすぐに野菜ができるので、高頻度で収穫することも少なくありません。
規模の大きい畑なので、今年はすでに200個もの野菜が収穫できました。

また、成長段階を子どもたちと一緒に観察してみたり、実際にその様子を絵に描いたりするなど、「育つ過程の取り組み」もとても大切にしています。
育つ過程を重視する理由は、こうした畑での取り組みや、野菜を育てる体験を通した子どもたちは、命の大切さをより間近で感じることができると思っているからです。

ちなみに、収穫した野菜は実際に子どもたちと一緒に調理するなど、園で美味しくいただいています。
過去には、カボチャのスープを作ったり、ケーキやカレーに使ったりといろいろな料理を楽しんできました。

育てるだけではなく、「調理する」「楽しく食べる」といった工程まで体験できるのが、宝珠保育園の特徴とも言えると思います。

野菜の成長に喜び、驚く子どもたち

畑で活動する子どもたちを見ていると、本当に子どもたちが野菜の成長に喜んでいて、ときには心から驚くような様子も見られます。大人としては「やってよかったな」という気持ちになるものです。

たとえば、トウモロコシの葉を剥いたとき、粒がぎっしりと詰まっていることや、一粒一粒の美しさに子どもたちが驚きの声を上げるのです。
大人としては当たり前、と思うのですが、子どもたちはそうではありません。「本当にトウモロコシってこんなに粒がたくさんあるんだ!」「トウモロコシってきれい!」と、畑での体験を通してこのように感じられるのは、貴重だと思います。

ちなみに、野菜の収穫は1歳頃の比較的小さなクラスも体験することがあります。そんな小さな子どもたちが、一生懸命サツマイモの蔓を引っ張る姿は、いつ見てもかわいくて仕方ありません。 楽しそうに、そして一生懸命に、子どもたちが野菜と向き合う姿は、これから先も見ていきたいなと思っています。

作物作りを通して見えた、子どもたちの心の変化

畑で作物を作るようになり、子どもたちにはさまざまな心の変化が見られるようになりました。
まず、目に見えて変化が感じられたのが「残食をしないこと」です。
園で畑の取り組みを取り入れるようになってから、子どもたちは給食を残さず食べるようになりました。
これは、実際に子どもたちが野菜を作るという体験をして、命を育てることの大切さを学べたからであると思います。

とある保護者の方からは、「食事のとき、子どもに“残しちゃだめだよ”なんて言われてしまいました」といった声もあるほど。
畑での体験が、子どもたちの食育につながっていると強く実感しています。

また、畑での活動を通して、食育の面だけではなく、生き物を大切にするという、やさしい心を持つ子どもに成長している様子も見られるようになりました。
「むやみに花をむしらない」「虫を踏まないように気を付ける」など、些細なことかもしれませんが、私はとても大きな変化であると感じています。

こうした子どもたちの心の変化を見ていて、私が思うのは「この園児たちはきっと、将来人や自分を傷つけることはないだろうな」ということです。
野菜を育てるという一連の活動の中で、宝珠保育園の子どもたちは命の大切さを肌で感じてきたと思います。だからこそ、自分のことも、他人のことも大切にできる人に育つのではないでしょうか。

畑仕事で「子ども」と「他者」との関わりを深める

野菜を育てるという取り組みの中で、子どもたちは大人との関わりも深めています。
現在は、コロナ禍ということもあり、外部との交流機会を設けることは難しいのですが、以前は園児の保護者の方々に畑仕事を手伝っていただいたり、近隣に住むお年寄りの方々と交流したりしながら野菜を育てていました。

宝珠保育園の「野菜作り」という取り組みが、外部との交流機会になり、子どもたちの良い経験となっているのです。

実際、コロナ禍以前は、収穫した野菜を使って、焼き芋パーティーをしたり、豚汁パーティーをしたりするなど、お世話になった方々を招いた行事も行っていました。

「畑で野菜を作る」という活動が、こうしていろいろな形で他者との関わりを増やし、深めることにつながっています。
今後、新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着き、通常通りの生活に戻ることができれば、また以前のように地域の方々や保護者の方などを招いて、恩返しができるような行事を行っていきたいと思っています。

また、宝珠保育園では、収穫した野菜は園で消費するだけではなく、外部にもおすそ分けをしています。地域貢献の一環として、主に子ども食堂や地域の飲食店などに使っていただいています。

宝珠保育園の畑は規模が大きい分、とれる野菜は数百個単位なので、このたくさんの野菜を人のために使えないかな…と個人的に考えていたのです。

子どもたちにも野菜の使い道についてきちんと話し、「自分たちが作った野菜、人にあげてもいいよ!」という心やさしい声が上がったのを今でも覚えています。

私が宝珠保育園で畑の活動を取り入れた理由は、すでにお話した通り命の大切さを学ぶためでもありますが、さらに豊かな心を育てることにもあります。
「自分たちだけが幸せであればいい」という考え方の人間になるのではなく、周りの人にも手を差し伸べられるような、そういう人間になってほしいと心から思うのです。

宝珠保育園に畑の活動を取り入れてからおよそ10年になりますが、当園で過ごす子どもたちはみんなやさしく、豊かな心を持てるようになっていると感じます。

宝珠保育園の今後のヴィジョン

上記でもお話したように、宝珠保育園では作った野菜を地域貢献の一環としておすそ分けしていますが、今後はさらに提供の場を広げていきたいと思っています。

食材を必要としているところに、宝珠保育園の野菜が渡ったらこんなに嬉しいことはありません。具体的には、福祉施設を中心に提供先を増やしたり、無人販売を設置したりしてさらに宝珠保育園の野菜がいろいろな方の手に渡るようにできれば、といったヴィジョンを持っています。

無人販売所の設置については、いろいろな方に宝珠保育園の野菜を提供したいとの考えから、さっそく準備をしているところです。
子どもたちの作った野菜が、どんな方の元に届くのか、とても楽しみですね。

宝珠保育園の園児に限らず、子どもは未来そのものであり、私たち大人がきちんと見守っていかなければなりません。

今は7家庭のうち1家庭が貧困であるとも言われていて、私自身も危機感を覚えています。だからこそ、地域貢献という形でできることがあればお役に立ちたいと思っています。

また、私たちの住む日光市を良くしたい、という気持ちも常に持っています。この町をもっと良くすることができるのではないか、そのためにはどんな取り組みをしたらいいのか、などきちんと考え、私たちにできることを一つひとつ進めていければ嬉しく思います。