こんにちは、宝珠保育園の園長です。
昭和55年に開園の歴史ある当園で最も力を入れており、保護者の方からも「やらせてよかった!」「子どもが変わった!」といった声を多くいただいている『和太鼓』の取り組み。
毎年、「我が子にも和太鼓に触れてほしい」といった保護者の方々から多くの入園希望があり、本当にありがたい限りです。
前園長から引き継いだ「伝統文化に触れてほしい」「和太鼓を通して頭・体・心をはぐくんでほしい」の想いを胸に、当園がどのように取り組んでいるのかご紹介します。
『和太鼓と脳科学』幼少期の演奏経験が賢い子どもにする
脳科学の観点から、和太鼓と子どもの脳の成長には深い関わりがあるとしてさまざまな研究データが展開されています。
もともと、楽器の演奏は脳の成長や活性化に効果的と知られていますが、なかでも和太鼓独特の演奏スタイルは、幼少期の脳の発達に良いとされています。
実際に和太鼓の演奏を見たことがある方であれば分かると思いますが、演奏時には右手と左手の振り方が異なります。右手のリズムと、左手のリズムが違うので自分の頭の中でそれを理解しながら、自分のリズムパートを演奏しなければなりません。
この左右の手の動きの違いが、左脳・右脳を刺激すると言われているのです。和太鼓の演奏は一見すると単純に太鼓を打っているだけのように見えるかもしれません。しかし、子どもたちは脳をフルに働かせ、複雑な動きを習得したうえで演奏をしているのです。
宝珠保育園で和太鼓を取り組みとして導入してから40年近くが経ちましたが、これまでに多くの保護者の方から、
「年中さんの時と比べると子どもの飲み込みが早くなったように思う」
「和太鼓に触れる前と比べて、子どもが物事の理解力が増したように感じる」
「他の保育園の子どもたちと比べると宝珠保育園の子たちは飲み込みが早い気がする」
などの声をお聞きしてきました。
これも、日ごろから和太鼓に触れていることで、脳の成長・活性化がされていることが理由として考えられるのでは、と私は感じています。
また、保育士の目線で見ても、宝珠保育園に通う子どもたちは大人の話をよく聞く子が多いですね。
和太鼓の演奏ができるようになるためにも、子どもたちは指導者の話をよく聞き、集中して練習に取り組むことが大切。こうした日々の経験が、大人の話をよく聞き、きちんと理解できる子どもへと導いているのかもしれません。
参考:和太鼓教育センター
和太鼓で「引っ込み思案な子ども」から「堂々とした子ども」に
和太鼓を通して、引っ込み思案だった子どもが、自信を持った堂々とした子どもに変わっていくのを私はたくさん見てきました。
和太鼓の練習や、人前での演奏を通して、自分に自信をつけられるようになったのだと思います。
基本的に、どの子どもも最初から和太鼓の演奏がうまくできるわけではありませんし、練習もスムーズに進むわけでもありません。だからこそ、日々の練習が実を結び、ついにできるようになったという成功体験は子どもの自信に繋がるのです。
「自分でもできるんだ!」「たくさん失敗したけどやっとできた!」という幼少期の経験は、子どもたちの自尊心の向上にも影響するのではないでしょうか。
実際、保護者の方からは、「引っ込み思案な子だったのに、和太鼓を演奏するときは堂々としている」「内気な我が子が、少しずつ積極的になってきた」といった、といった嬉しいお話を伺ったことがあります。
また、宝珠保育園は、地域の催しや園の行事等で演奏する機会も多く、こうして人前で演奏する体験を繰り返していくことも、心を強くすることに繋がっていると感じます。
これまで宝珠保育園では、国際的なイベントや歴史的な場面など、大きな舞台でもたくさん和太鼓を披露し、たくさんの子どもたちが自信を身につけてきました。
こうした和太鼓を通したさまざまな経験が、子どもたちの堂々とした立ち振る舞いに繋がっているのでしょう。
子どもの体を強くする、和太鼓での体力づくり
スマートフォンやテレビゲーム、パソコンなどが身近なものとなり、子どもたちはどんどん外遊びをしなくなっていきました。室内で動かずに過ごすことが増え、いわゆる肥満児の増加も問題視されています。
子どもたちの運動不足を招くような環境になりつつある時代ですが、宝珠保育園の和太鼓の取り組みが、子どもたちの体力づくりに貢献しています。
そもそも、和太鼓の演奏は見た目以上に体力を使うものです。宝珠保育園の曲は、1曲で8分にも及ぶうえに、正しい姿勢を維持したり、立ちっぱなしの状態で演奏を続けたりすることになるので、必然的に子どもたちの体力や筋力が求められます。
子どもたちも練習間もないうちは、「手が痛い」「足が痛い」なんて口にすることもありますが、練習を重ねていくにつれ体が強くなっていくのが和太鼓のメリット。次第に、和太鼓の演奏が終わっても子どもたちは元気いっぱいの様子が見られるようになり、体力が向上していることが分かります。
健康の土台となる和太鼓の取り組みは、子どもたちの心身の成長を支えているといっても過言ではないのです。
「中学生が演奏しているのかと…」
宝珠保育園の誇るプロレベルの演奏技術
和太鼓を取り組みの一環として取り入れている保育園は、宝珠保育園だけではありません。しかし、宝珠保育園にしかないポイントといえるのが、プロレベルの演奏技術です。
過去には有名な和太鼓のプロを園に招いて年に1~2回の頻度で直接指導してもらっていましたし、プロの創作和太鼓集団である「鬼太鼓座(おんでござ)」に園で演奏していただくこともありました。
宝珠保育園の和太鼓の取り組みは、プロという“本物”に触れる機会もあったことから、現在のような演奏技術が確立できたと感じています。
実際、地域などの行事で子どもたちが和太鼓を演奏していた際に、たまたま近くを通りかかった方から「中学生が演奏しているのかと思った」とお声がけいただいたことがあります。
子どもたちとともに和太鼓に向き合っている私としては、とても嬉しいお言葉でした。
正直、宝珠保育園で演奏する和太鼓はとても難しいものです。曲の長さは8分にも及びますし、子どもたちは3つのリズムに分かれて、お互いの音色を聞きながら演奏していきます。
3パターンの演奏をみんなで進めていくことは大人であっても難しいのが事実。はじめは子どもたちも、ちょっとでも失敗するたびに演奏をストップさせてしまい、自分の演奏に戻れないまま、おろおろすることがありました。
それでも、難しいリズムを体と頭で覚えていき、子どもたちそれぞれのペースで和太鼓の打ち方を習得していきます。
次第に、演奏の途中で自分のリズムを間違えても、慌てることなく途中から演奏を再開できるようにもなり、技術面はもちろんのこと、落ち着いて対処できる心の強さも身につけられているような気がしますね。
長年、和太鼓を練習する子どもたちを見てきましたが、演奏中にふとしたときにプロのような真剣な顔をしていることもあります。和太鼓に対して絶対的な自信が身についてきたことが、その表情に表れているのでしょう。
国際パーティーや国体のオープニング、
「大舞台での演奏」が世界へ羽ばたく準備に
コロナ禍によってイベントが減ってきているので、今でこそその機会は減りましたが、以前は大舞台で演奏することが多々ありました。たとえば、アジアの大使が来日した際の国際交流の記念パーティーや、日光で行われた国体でのカウントダウンのオープニング、日光市役所の落慶式(新築や修理の祝賀儀式のこと)など、子どもたちが大勢の前で演奏する機会がたくさんあったのです。
歴史的な場面での演奏機会をいただくことができ、子どもたちは人生の中でも本当に貴重な経験をしました。
要人たちを前にして演奏する緊張感や、普段とは異なる雰囲気の中で演奏するプレッシャーを感じるような経験をできる子どもは少ないでしょう。
こうした大舞台での演奏は、いずれ子どもたちが世界を舞台として活躍するにあたり、良い経験になると思っています。
世界に飛び出したとき、日本の伝統文化である「和太鼓が演奏できる」という事実は自分の特技となりますし、それは自信にも繋がるはずです。そして、その自信は子どもたち自身を助けることになるでしょう。
また、自分のアイデンティティも確立でき、自分に誇りを持って行動を起こせる大人になると思っています。
ちなみに、子どもたちの演奏舞台は、地元にもたくさんあります。高齢者とのふれあいも兼ねて介護施設で演奏をしたり、小さい子のクラスや保護者に聴いてもらうために園の夏祭りで披露したりと、園内・園外を問わずに積極的に子どもたちにはお披露目の場を設けていました。
現在はコロナ禍ということもあり、参加できる行事も園で行えることも少なくなってしまいましたが、人前で和太鼓を演奏する体験は子どもたちの成長に繋がることなので、園としてもとても悩んでいるところです。
早くコロナ禍前の日常に戻り、子どもたちの活躍の場をまた設けてあげられないか、園としても模索中の状態です。
遠方から当園する子どもたち
親御さんの「和太鼓をやらせたい」に込められた教育姿勢
現在、多くの子どもたちが宝珠保育園に通園していますが、中には車で30分以上もかけて毎日元気に当園してくれる子・保護者の方もいらっしゃいます。
本来保育園と言えば、自転車や徒歩で通える場所を選ぶのが一般的ですが、今市や旧日光市の他、小林や塩野室といったエリアから、土沢にある宝珠保育園に通わせたいと言ってくださる保護者の方も少なくありません。
その理由を伺ってみると、皆さん口をそろえて「宝珠保育園の和太鼓をやらせたい」とおっしゃってくださいます。
宝珠保育園の和太鼓教育を口コミなどで知って、その取り組みに共感して当園を選んでくださる保護者の方が本当に多い状況です。
とくに、子どもに対する教育に意識が高い方、子どもの経験を重要視している方などからのお問い合わせやご連絡が多く、子どもたちを第一に考えている保護者の多さに驚くばかりです。 また、日光市は人口減少が深刻ですが、唯一土沢だけが人口の増加が見られていると言われています。もちろん、土沢ICが近いといったアクセスの良さも背景にあるとは思いますが、宝珠保育園の入園を視野に入れて、他のエリアから移住してきてくださる方もいらっしゃったら嬉しいなと期待しています。
世界情勢の変化、不況、技術進化…過去の常識が通用しない
ヴーカ時代に向け、「生きる力」を身につけてほしい
これから突入すると言われる「VUCA(ヴーカ)」の時代に向け、子どもたちは生きる力を身につけていかなければと危機感を抱いています。
VUCA(ヴーカ)とは、予測が難しい状態のことを指す言葉で、
V:Volatitity(変動制)
U:Unsertainty(不確実性)
C:Complexity(複雑性)
A:Ambiguity(曖昧性)
それぞれの単語の頭文字から作られています。
皆さまも知っている通り、めまぐるしく変化する世界情勢に国内外の不況、過去に類を見ないほどの円安の進行など、将来を悲観したくなるような不安な出来事が次々と起こっている状況です。
日本国内の人口減少もとどまることはなく、日光も例外ではありません。人口の減少に伴い、日光はもちろんのこと、国内全体の経済がますます縮小を辿ると考えられています。
そして、飛躍的な技術進化も相まって、私たちはますます時代を先読みすることが難しくなりました。
そんなVUCA(ヴーカ)時代の真っただ中を生きる子どもたちには、生きる力を身につけてほしいのです。
これから先、何が起きるか分からない時代だからこそ、日本で生きていくという選択肢の他にも、好きな国で好きなことをして活躍するという選択肢があることを知らなければならないと思っています。生きる力を身につけておけば、どこに行っても自分らしく輝きながら、人生を送れるようになるのは言うまでもありません。
そうした生きる力を身につけるヒントとなるのが、自分への「自信」と「考える力」であり、私たち大人がその自信を身につけられるように、環境を整えていかなければなりません。宝珠保育園が考えるその環境の一つが「和太鼓」なのです。
日本の伝統文化である和太鼓に触れ、日本人であることを誇りに思うことができたら、どこの国で人生を送ろうと活躍でき、豊かな心を持って生きていけるはずです。
現在はYouTubeに子守りをさせていたり、スマホやゲームがないと空いた時間に何をしたらいいか分からない子どもが増えていたりと、本当に危機感を覚える時代です。
iPhoneを発明したスティーブ・ジョブズやマイクロソフトのビル・ゲイツですらも、我が子にはスマホを与えなかったという事実が周知されている今、やはり子どもたちとスマホの距離には問題意識を感じます。 極端な話にはなってしまいますが、そうしたスマホ・パソコン・ゲームと触れ合う時間を、和太鼓を楽しむ時間に変えることができたら、子どもたちはもっと健やかな生活と心身を手に入れることができると思うのです。
「“本物”に触れてほしい」
当時の園長の熱意で取り入れた和太鼓
今でこそ和太鼓はさまざまな場所で見かけるようになりましたが、当園が和太鼓を園の教育に導入したのは開園から3年が経った昭和58年のこと。私の父である前園長が「“本物”に触れてほしい」「伝統文化を取り入れたい」と、教育の一環として導入することにしたのです。
和太鼓の取り組みが始まったばかりの当初は、かなり手探りの状態であったと聞いています。そもそも和太鼓が広く認知されているわけでもなく、園長自身にも和太鼓の知識や技術があったわけではありませんでした。
それでも園長が日本の伝統文化である和太鼓を取り入れたいと、プロに指導を依頼したり、有名な演奏者を招いたりして、少しずつ現在のような和太鼓の技術を習得するに至ったのです。
ここまでして、当時の園長が和太鼓を取り入れたいと強く希望したのには、子どもたちに伝統文化に触れてほしいという理由だけではなく、今回お話ししたような、子どもたちの心をはぐくむこと、脳の発達に繋がること、体を鍛えること、といった3つの良い影響が背景にあります。
私が園長になった今も前園長の想いを引継ぎ、現在も和太鼓を積極的に購入したり、私自身が指導を担うなど、“本物”に触れられる機会を逃すことのないようにしています。
日々の子どもたちの様子を見ていると、子どもたちは本当に和太鼓が好きという様子がうかがえます。
現在は、30分の練習を週に4回(月・火・木・金)行っており、子どもたちが和太鼓に触れるのはほぼ毎日です。
子どもたちが朝当園してきては、第一声に「今日、和太鼓やるの?」なんて出てくることも多く、大人が先導するのではなくて、子どもたちが主体となって取り組みが成り立っていることに、本当に嬉しさを覚えます。
そもそも、宝珠保育園の子どもたちは0歳児のうちから和太鼓の音色を聞きながら育ってきました。
保育園に来ると和太鼓の音色が聴こえてくることが当たり前の環境で育ち、次第に「和太鼓を演奏する年長さん」に憧れ、いざ自分たちがその時の番になると「やっと自分たちが和太鼓を叩ける!」とわくわくしながら初めて和太鼓に触れます。
これまでたくさんの子どもたちが園で和太鼓の練習をしてきましたが、誰一人として「和太鼓をやりたくない」という子はいませんでした。 和太鼓の教育が、どれだけ子どもたちの中に深く入り込み、その心と体に大きく良い影響をもたらしているか、お分かりいただけたでしょうか。
今から20年後は、子どもたちが社会の中心となります。
大きな話になってしまうかもしれませんが、そのような時期を生きる宝珠保育園の子どもたちには、世界で活躍できるような大人になってほしいな…と思っています。
好きなことを見つけて、好きなことを突き詰める。日本にこだわらず、世界中どこに行っても生きていけるような力を身につけて、好きな場所で好きなことに夢中になり、社会の中心となる時代を生きていってほしいのです。
世界に出たとき、日本人として胸を張れるようになってほしいという想いも、日本の伝統文化である和太鼓を取り入れている理由の一つです。
大人になるため、社会に出るための土台を宝珠保育園で培っていき、子どもたちには命を輝かせてほしいと願っています。 宝珠保育園の子どもたちがみんな「自分はできる子だ」と高い自己肯定感を持ち、これからも幸せに生きてほしい。そして、すでに突入し始めているVUCA(ヴーカ)の時代に備えて、私たち大人が子どもたちの環境づくりを支えていきたいと思っています。