宝珠のおたより

自ら考えて行動する子を育てるために

こんにちは、宝珠保育園の園長の倉松です。

いつも『宝珠のおたより』をご覧になってくださる皆さま、本当にありがとうございます。

今回は、子どもが自ら考えて、意思決定を行い行動すること・自律性についてお話ししたいと思います。

私は日頃から、たくさんの経営者の方々とお会いする機会があります。そこでは様々な意見交換をさせていただくのですが、コロナ禍以降明るい話題は少なく、経営の苦労話を多く耳にします。

ここ日光地区は観光業が主力産業ですが、コロナの影響を特に強く受けています。

経営が経ちいかなくなり、廃業という苦渋の決断をされた経営者さんも少なくありません。

一方で、このコロナ禍にあっても日光で起業されて成功している若い経営者さんもいます。

こんなご時世にどうやって?

お話しを伺ってみると、成功の要因はシンプルでした。

WEB広告を手掛けるこの方によれば、「コロナ禍の今だからこそ、日光にニーズがある」と確信したことが起業の理由だったそうです。

まさに自律性豊かな方だから成功できたのだなと思いました。

ここ数か月、対コロナでの国内状況は劇的に変ってきています。

3月からマスク着用は個人の判断に委ねられることになり、行動そのものへの制限もほぼなくなりました。

かつて壊滅的なダメージを受けた観光・飲食業界も活況を取り戻しつつあるかのように見えます。

しかし、日光市の現状は決して楽観できないものとなっています。

日光に観光客が戻りつつある今、雇用を増やしたいが人材がまったく集まらないのです。

いずれ状況が好転した時への備えが足りなかったのでしょうか。

「コロナ禍で何を考え、何をしたのか」が今、結果となって表れているような気がします。

2000年代以降、経済のグローバル化と共に、人材のグローバル化が求められるようになりました。

また、AIの急速な進化に伴い、多くのビジネスシーンで人間のやるべき仕事の領域は狭まり、より高い付加価値を提供できる人材でなければ稼げなくなってきています。

日光という地方の片田舎には無縁の話と捉えられるかもしれませんが、日光の今を知るとそうではないと思い知らされるはずです。

市の統計によれば、2020年の日光市内での出生数は353人、死者数は1279人でした。

また日光市への転入者数1874人に対し、市外への転出者は2214名となっています。

つまり、人口は確実に減り少子高齢化が顕著となっているのです。

実際、日光市の人口約80,000人の36%が65歳以上の高齢者であり、15歳以下の子どもは10%を割っています。

少し乱暴な言い方をすれば、この日光で生まれ育った子どもたちが大人になった時、観光以外の有力な地場産業のないこの地で稼いでいくのは極めて厳しいと思われます。多くの子どもたちはいずれ日光を離れていくでしょう。

コロナ禍以降顕著になった産業の衰退、加速する少子高齢化、不安定な社会情勢など、今の子どもたちが向かう未来に、希望を見出す材料が見つからないというのが正直な感想です。

しかし、どんな未来が待っていようと、子どもたちには力強く生き抜いてもらいたい。 仮に活躍の場を世界と捉えていかねばならないのなら、自律性が豊かであることは必須となるはずです。

自分自身で考え、自分を律して行動する=自律性

自律性とは具体的にどういうことでしょうか?

多くの方は自立性や自主性と同義語と思われているかもしれません。

まず、自律とは何かについてお話ししたいと思います。

自律とは、自ら考え、自らを律しながら意思決定を行い行動することです。

自立と自律の違い

「じりつ」と音は同じでも、意味は大きく異なります。

自立とは、他者に依存せずに自分で行動できることであり、「何かを遂行するための能力」「経済力」「身体能力」など外的要素の独り立ちを指します。つまり誰かのサポートを得ずとも自力で何かができることが自立です。

自律とは、自分自身の内的要素に関する独り立ちを指します。価値観・理念・信条・哲学など個人の内面において他者からの制約などに縛られず、自分自身を律することができるということです。

それは何もない状態から、自分自身で何かを創る原動力となるものです。

自主性と自律性の違い

自主性とは「あらかじめ決められたやるべきことを自ら進んでやること」を指します。

「○○をしてください」と集団に指示をした時に、率先して行動を起こしやり遂げるのが「自主性」ということになります。

自律性とは「自らやりたいこと・やるべきことを考え、行動を起こすことができること」を指します。与えられた指示通りに行動するのではなく、子どもが自由意思によって考え、自分自身を律しながら行動を決定していくことなのです。

自律性が豊かな子とそうでない子の差は、成長していくほどに強く現れます。 もっとも大きいのは意思決定力の違いです。

自律性を育むために大切なこと

自律性豊かな子どもの特徴とは?

わからないことをそのままにしない

自律性が豊かな子は、わからないことをとことん知りたがります。

なぜ? どうして?と次々に質問をしてくる子に対して、大人は一緒になって考えるというスタンスを取ることが必要です。

「それは○○だよ」と断言してしまうのは、子どもの考える機会を奪ってしまいます。

また、突っ込んだ質問をされた時などに怪訝な表情を見せたりすると「質問するのは悪いこと」という認識を子どもに植え付け、子どもの探求心・好奇心を損なってしまいます。

自律性の本質とは、自分自身の行動に対する確固たる理由付けであり、知りたいことを知れたという納得感の積み重ねがそのベースとなるのです。

大人顔負けの探求心

園ではお店で買い物をするシチュエーションで「お買い物ごっこ」の遊びをしていますが、先日面白い光景を目にしました。それはお店側の役をしていた子が、商品に売れるものと売れないがあることに気づき、「なぜ売れないのか?」を考え始めたのです。やがて、みんなで理由を考え始め、その姿はまるで企業の経営会議さながらの光景でした。

社会人スキルのひとつに「課題発見力」というものがありますが、それはまさに幼少期から育まれていく能力なのです。

同じことの繰り返しを嫌う

自律性が豊かな子は、「知っていること・できること」より「知らないこと」に強い関心を示します。また、現状に満足せず、よりよいものを求める傾向も見て取れます。

そんな子どもに対しては、外の世界をたくさん見せてあげることが大切です。同じ日常を繰り返すのではなく、行ったことのない場所へ行き、見たことのないものを見て、触って、感じる。

五感を駆使して未知のものを知っていくことこそが、自分で決められる判断基準を確立するために不可欠な経験・知識の蓄積に繋がります。

独自の個性を表現できる

当園の最大の特徴のひとつである和太鼓演奏。その演奏においても、自律性は発揮されます。

調和のとれた演奏を損なうことなく、自分のオリジナルをどう発揮できるかを考えるのです。

どうすればカッコよく見えるか?

そんな思いから、カッコいい自分だけの型を作る子どもがたくさんいます。 「右に倣え」で人と同じであることを良としないことこそが、人間としてのユニークさの獲得になります。

自律性を育むために行なっていること

■○○しなさいは言わない

大人がこどもに行動を強いるのは価値観の押し付けであり、自由意思を奪います。

ケガに繋がるような危険な行為や、他人を傷つけるような行動を除いては、子どもの行動には制限を加えません。子ども自身が考え、やると決めたことはとにかくやらせることが基本です。

■こどもが自由に遊べる時間を作る

園児が当園してから始業までの時間は、自由遊び時間としています。

お絵描きをしたり、おもちゃで遊んだり、アプリで使ったり、子どもたちは各々好きなことをして過ごします子どもたちはそこにある様々なツールの中から好きなものを選び、自由に遊びますが、その時々の気分により自ら選択し、自分の考えた遊び方で遊ぶという意思決定がそこにはあります。

■各種行事で子どもに多彩な体験をさせる

当園が行っている行事の中で、保護者の方々の多くに「感動した」と仰っていただいているのが、演劇の発表会です。テーマは生きることの大切さを子どもたちに知ってもらうこと。劇の内容は、クラスごとのオリジナル劇で、子どもたちが保育園で体験したことや感じたことをベースに、先生と園児が一緒に作り上げていきます。当園で行う行事は、子どもたちにとって大切な学びとなる体験をしてもらうことを目的としたものです。

家庭での子育てにおいて注意していただきたいこと

■決めつけをしない

○○してはいけない、○○しなきゃダメという決めつけは止めたほうがよいと思います。

「道路に飛び出す」「危険なものに触れる」「他人を傷つける」などの行為を除いて、極力子どもの行動は自由にさせ、見守るという姿勢でいてください。危険行為を抑制する場合は、なぜそうすることがいけないのかを一緒に考えながら理解させることが必要です。

■子どもを怒らない

障子を破く、壁に落書きをするなど子どもはよくいたずらをします。

いたずらをしたからといってすぐに叱るのは、あまり意味がないと思います。なぜなら子どもは興味の対象がすぐに変わり、何度かそのいたずらをしてもいずれはやらなくなります。

■何気ない言葉が子どもを傷つける虐待行為となる

虐待行為と聞くと、身体的な虐待を創造されるかもしれませんが、じつは何気ない言葉が子どもを深く傷つけることがあります。

「うちの子は遅生まれで他の子より成長が遅いから」

「うちの子は大人しいから」

ママ友などにうっかり言いがちなこれらの言葉。

子どもにとっては自分を否定されていることになり、著しく自己評価を下げてしまいます。

■興味関心が薄いことを無理にやらせない

お子さんが習い事を始めてすぐに辞めたいと言い出したらどうしますか?

「せっかく始めたのだからもう少しやってみなさい」など無理強いするのはやめましょう。

子どもは、自分が楽しいと思うことは、やり続けます。

私が思うに、自律性の高さの違いは、子どもがどれだけの熱量を持って行動したかの差によるものと考えます。人が高い専門性を獲得していくのは、興味・関心の強い事柄について深く追求していった結果であり、子どもが自律心を育んでいくのも「自分が心から好きと思えるもの」を発見さえできるかどうかこそがポイントだと考えます。

自律性の獲得こそが、未来を生き抜く力となる

みなさんは稼げる人とそうでない人の差はどこにあると思いますか。

仕事量の違いでしょうか?

技術力の違いでしょうか?

稼ぎの本質とは、仕事で提供できる付加価値であり、仕事の希少性にあります。

高い専門性を持ってその人にしかできない仕事をするためには、唯一無二の強い個性がなければなりません。

そんな個性豊かな人間へと成長するために必要なのが、自分で考え、他者に依存せず自分で意思決定し、行動できる自律性なのです。

アスリート、起業家、アーチストなど、多くの若者がグローバルに活躍しています。

彼らに共通するのは、自分が好きな道に突き進んでいく突破力と大胆な決断を躊躇しない胆力があること。

それは、自分が決めるという自律性を高めた先に獲得したチカラなのではないでしょうか。

幼少期からの育て方次第で子どもの自律性は高められます。

私たちは子どもたちが幸せな人生を送るために、何ができるかを追求し続けることをお約束いたします。